利用者の"生の声" 〜東京家政学院大学 助教 松山直輝先生〜
このたびスポチュニティでは、東京家政学院大学 助教 松山直輝先生にお話を伺いました。
松山直輝先生は、広島県立庄原特別支援学校に通う住田英樹選手のメインコーチとしてこれまで活動をなされてきました。住田選手は当初、特別支援学校の高等部2年生の選手でありながら、健常者が参加する2021年広島県高等学校新人大会に出場し「県6位入賞」の実績を残した選手でした。しかし、目標とする次年度のインターハイに出場のためには練習環境が十分でなく、その環境整備と競技力向上を目指してスポチュニティをご利用いただきました。
今回はクラウドファンディングの実施に至った経緯や思ったことなど、松山直輝先生の声を配信します。
写真1:東京家政学院大学 助教 松山直輝先生
《クラウドファンディングの利用の背景》
スポチュニティ:クラウドファンディング(以下、クラファン)を始めるにあたって、何かクラファンをするきっかけはあったのでしょうか︖
松山先生:実施以前、住⽥くんにはウエイトトレーニングをする器具や環境がない状態だったので、「もしそれがあったらもっと記録伸びるのに」と歯痒い思いでした。それで買う買わないという話になるのですが…。あれ?それって先に繋がらないのでは?と思ったのです。長い目で見れば大事なのは器具じゃないなって。どちらかといえば、地域で彼のことが知られず、孤独に競技をしてる方が今は深刻だなって思ったんです。やっぱり「応援されている」ってそれだけで嬉しいですし、やりがいがあるじゃないですか。道具もそうですが、それもどうにかしないとなって。
スポチュニティ:そういった状況を打破するのに、クラファンが使えると?
松山先生:クラファンであれば器具を購入する事ができるかもしれないし、ダメでも地域の「応援コミュニティ」ができるかもって考えました。それで、住田くんの親御さんに相談して、住田家のクラファンプロジェクトをコーチである私が積極的に宣伝するという流れとなりました。「プロジェクトの宣伝」=「応援コミュニティ作り」になるので、実施期間中は積極的にポスター張りの営業をしたり、SNSで発信したり、メディアに働きかけたりしました。
《スポチュニティの利用について》
スポチュニティ:実施期間中はスポチュニティメンバーとどんなやりとりがあったのですか?
松山先生:とても多くのアドバイスをいただきました。一つ一つが自分の思いつかなかった事で、とてもありがたかったです。こちらかも「こんなアイデアってどうですか?」と積極的に提案もしました。
スポチュニティ:お互いに働きかけたプロジェクトだったのですね。例えば、松山先生はどのような提案をしたのですか?
松山先生:地域の飲食店に働きかけて、住田くんの身体作りに向けた食事を提供する商品を作ろうと提案をしました。そうすれば地域と関わる愛された選手になるかなと。そういった、地域戦略を考えていくのも楽しかったですね。他には、SNSで住田くんが練習している姿等を動画で積極的に発信しました。
スポチュニティ:結果的に2つの狙い、資金調達と地域を盛り上げる、これらは松⼭先生の構想通りになったのではないでしょうか︖
松⼭先生:そうですね。支援者の皆様には本当に感謝しています。応援コミュニティもSNS上や地域だけでなく、県や全国的にも注目される選手になったと思います。こういった純粋に住田くんの事を支援・応援してくれる方々への感謝を忘れないようにしたいですね。また、住田くん自身も成長が見られたように思います。
スポチュニティ:例えば、どんなところに成長がありましたか?
松⼭先生:気持ちのところですよね。私との広島最後の練習日に住田くんが手紙をくれて、その手紙にはこれまで指導をしてくれた事への感謝やクラファンで応援してくれた人たちの期待に応えたいって言葉も書かれていたんです。この気持ちの部分は机の上で学べる事じゃないですし、そういった競技を通じて学んだ事を大切にしてもらいたいですね。
スポチュニティ:競技的に一番印象に残っているのはどのシーンですか?
松山先生:一番胸にきたのは、5月の県総体で7位だった後のシーンですね・・・。昨シーズンは精神的に緊張し過ぎて大会で実力が出せない事が多くて、毎回のように「僕は本当にダメだ」と大泣きしていたんですよ。でも7位だった時の涙は「頑張ったけどダメだった」「挑戦したけどダメだった」という感じで、あんなに弱々しかったのに、一人のパラアスリートとして成長したなと思いました。
スポチュニティ:今でも⽀援された⽅との関係は続いているのでしょうか︖
松⼭先生:SNS上でも地域でも続いていますね。特に地域の方や私の知人は、SNSで大会結果を発信する前に「惜しかったねー!!」と連絡がきたりします。だから皆んな、私が発信する前に、自分で気になって調べてしまってるんですよね。他にも、インターハイに向けた住田くんの身体のケアや栄養指導を無償で引き受けてくれたBalanced Body福山の藤井先生による支援は、インターハイの夢が途絶えた後も続いている状態です。本当に、少し前までは十分なトレーニング環境がない選手だったのに、今ではトレーニング環境ばかりか地域で一番応援される選手になったのだと嬉しく感じ、皆様に感謝しています。
スポチュニティ:お話を聞いて、すべてが好循環だなと本当に思いました。ちなみにですが、その要因ってなんだったのですか?
松⼭先生:楽しむ事ですかね。実はプロジェクトが終わった時、「終わっちゃうのか」という残念な気持ちがあったのです。忙しかったですけどいいメンバーに恵まれて本当に充実した期間だったのです。勿論、目的は器具の購入と応援コミュニティの形成でしたけど、スポチュニティメンバーとの協働は他の経験では得難い充実した時間であったなと思います。
スポチュニティ:楽しむ事が大事なのですね。ではそういった「楽しむコツ」についても教えていただけますか?
松山先生:多分、自分の経験を活かしてできる事を全部やり切った事ですかね。例えば、趣味程度だった動画編集を改めて勉強して住田くんのトレーニング動画を作成したり、前職プロバスケチームの業務経験も住田くんの地域プロモーションに活かしたり、日常の指導ではスポーツ科学の知識だけでなく、私の陸上競技やプロバスケットボール、そして障害者スポーツコーチングの経験を活かす事ができました。こう言った自分の持てる全てを出し尽くす事ってなかなかないですし、それが住田くんの為になると考えるとやりがいみたいなものを感じていました。
スポチュニティ:お話を聞いていて、松⼭先生が色んな事に挑戦する⼈なのだと分かりました。そして⽀援⾦を集める以外に、⾊々な経験をしたいという⽅が、クラファンを成功に導けると思いました。また、スポチュニティを利⽤したのは、営業担当の情熱が決めてだったと聞きましたが、他のクラファンと⽐べてどのような違いがありましたか?
松⼭先生:他社様にも問い合わせをしましたが、相談していてどこか他人事な感じだったんですよね。ですがスポチュニティの営業の方だけは情熱的で、この方の会社なら信用できると思いました。思った通りスポチュニティメンバーの方々も情熱的で、住田くんや私の事を自分ごとのように考えて下さっているのを感じました。私も情熱的なクラファンをしたかったので、思いが一致したというところです。
写真2:住田選手にトレーニングを指導する様子
《今後住田選手・松山先生の目指している姿について》
スポチュニティ:話は今後に移りますが、住⽥選⼿に今後期待する事や思いはありますか?
松⼭先生:住田くんは気持ちの部分で全てが全て上手く物事が進んできてたわけではなく、競技や進路の部分で思い悩み、まだまだ課題もある状態です。そんな住田くんに今私が思うことは、この先競技を続ける・続けないに関わらず、色んな人達に支えられて自分の夢に挑戦できた経験を忘れないで欲しいですね。そして今後も成功や失敗がある中で挑戦する事を楽しみ、それを支えてくれる人に感謝できる大人になって欲しいですね。
スポチュニティ:次に松⼭先生の今後を教えてください。
松⼭先生:これまでもこれからも、特別支援教育やスポーツ科学を中心に社会に関わっていく事が大きなミッションですね。これまでもスポーツビジネスやプロコーチ、パラスポーツ、教員、クラファン等と広く関わってきました。そういった知識・経験を活かして社会に関わっていきたいです。もちろん、自分の専門領域だけではアンカバーな部分が世の中には多いので、そういった部分は様々な人と出会い協力していく事で新たなイノベーションを創出していきたいです。
スポチュニティ:と言う事は、住田選手との出会いも新しいイノベーションのきっかけとなったわけですか?
松山先生:そうですね。住田くんは私の人生を変えてくれた人の一人ですし、彼との出会いによって知的障碍を持つパラアスリートのコーチングについて本気で考える機会をもらえました。
スポチュニティ:具体的にどんな事をイノベーションとして考えましたか?
松山先生:主には新しいコーチング方法を編み出したりですね。例えば、クラファン以前、紙媒体で練習日誌が書けない住田くんにICT機器を活用した電子練習日誌を作ってあげた事があったのです。それによって住田くんの砲丸投げの技術に対する理解が高まり、たったの1ヶ⽉で記録が1m50cm伸びて県で6位の入賞を果たす結果を残したんですよ。その時、「そうやって工夫すれば知的障碍の困難を克服できるんだ!」って発見で、住田くんとはそういった事をたくさん見つけられました。そういったことって、現場の悩みに直接向き合わないと生まれないイノベーションじゃないですかね。
スポチュニティ:なるほど、そういった話はコーチによる専門的なイノベーションと言えますよね?
松山先生:そうだと思います。やはり知的障碍を持つパラアスリートの指導は世界的にも未だ体系化されていない未知の領域だと私は考えています。当然、これまで私と住田くんもこの未知の中にいたわけです。この中に飛び込んだからこそ、見えていなかった課題を発見し、コーチングの方法を試し、新しいイノベーションの発見と既知につながったと思います。
スポチュニティ:パラアスリート指導に向けたイノベーションとはとても興味深いですね。では次に既知にしたいことはどんな事ですか?
松山先生:今はICT・IoTを活用した遠隔部活指導や遠隔スポーツコーチングの方法論を研究しています。スポーツをやりたいけどその指導者になかなか出会えなくて、指導を受けられないって人は多いと思うんですよね。特に山間部等の僻地に住む障碍ある方々はコーチを探すのがもっと大変じゃないかって思うんです。でも私と住田くんがこれまでやってきた遠隔指導のやり方を使えば、そういった人達の世界が変わると思うんですよ。なので、次は住田くんと見つけたその方法論を洗練させて、多くの遠隔地のアスリートやパラアスリートをコーチと繋ぐ未知のイノベーションを推し進めていきたいですね。
スポチュニティ:今後も松山先生のイノベーションを楽しみにしています。本⽇は貴重な時間をありがとうございました。引き続きまたお願いします。
インタビュー日:2022年6月28日